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@cubid_10411 が書いたなんかのレビュー

UNDERTALE review

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「UNDERTALE」について書くことは,とても苦労することになると予想していた.どこから書き進めていけばさっぱり検討がつかないからだ.しかし書かなければならないだろう.ただ一つ言えることは,Toby Foxと数人のチームはインディーゲーム史上,あるいはビデオゲーム史上最も重要なゲームとして名を連ねる名作を完成させた.

 UNDERTALEは全てを持っている

いいゲームというものは,コントローラーを握り,ゲームの最初の画面と最初の音楽を感じた瞬間にいいゲームだとわかるものだ.そしてプレイを続けるなかでその感覚はずっと続き,プレイを終えた後までその体験が余韻として残るゲームだ.「UNDERTALE」を最初に起動した時,目に入ったドット絵のアートスタイルは同時期のインディーゲームと比べても決してクオリティが高いとは言えなかった.それをを見て,不安を一瞬でも覚えなかったと言えば嘘になる.しかしオープニングの紆余曲折の後,物語の舞台となる地下世界へ旅立った所で,僕は少し前の展開が気に入らなくて一つ前のセーブデータをロードし一部やり直した.そして改めて地下世界へと躍り出た時,このゲームの虜になっていた.このゲームはいいゲームどころではない.もっと上の何かだ.
本作はゲームに求められるもの...斬新なゲームプレイのアイディアや印象的なアートスタイル,心揺さぶるストーリー,魅力的なキャラクター,耳に残る音楽,その全てを持ち合わせている.

誰も殺さなくていいRPG

このキャッチフレーズは本作を表現するためによく利用される.本作は見下ろし視点で表現されるドット絵をベースとしたRPGで,フィールドを歩いてるとランダムエンカウントでモンスターと遭遇する.「たたかう」コマンドを使うことでモンスターを殺害することができ,EXPが得られ,LVが上がっていくのは通常のRPGと同様だ.しかし「たたかう」以外にも「にがす」コマンドが存在し,これによってモンスターの方から自発的に戦いをやめさせることができる.勿論曲がりなりにもモンスターたちは主人公を襲っているわけで,「にがす」のは簡単にはいかない.モンスターを調べ,「こうどう」コマンドによって挨拶したり,慰めたり,一緒に歌ったりすることで仲良くなる必要がある.モンスターと仲良くなれば,モンスターの方からたたかいをやめるわけだ.「にがす」とEXPは得られないし,もらえるお金も少ないため,一見メリットがないと思えるかもしれない.しかしストーリーを少しでも進めていくと,本作におけるゲームプレイの本質は主人公の肉体的な成長と全く関係がないことに気付くだろう.プレイヤーは「にがす」と「たたかう」を駆使して,モンスターと仲良くなるも,殺すも自由に振る舞える.全てはプレイヤー次第だ.

地下世界へようこそ.

主人公はイビト山なる場所から地下世界に落ちてきた子供で,地上へ脱出するために地下世界を横断する冒険に行くことになる.道中は様々なキャラクター,もとい地下世界の住人と出会うことになる.お花のフラフィや,主人公を母親のように世話しようとするトリエル,ダジャレばかり言うサンズと,頑張り屋の弟パピルスのスケルトン兄弟,殺人ロボットでありながらショービズの世界に生きるメタトンなど,一癖も二癖もあるキャラクターばかりだ,それ以外のキャラクターも個性に溢れ,モブと呼べるキャラクターは存在しないと思える.一人一人が地下世界を構成する住人としての役割を持っていて,世界が生きていると感じさせる.キャラクターたちとおしゃべりするのは本当にこのゲームの楽しい要素で,あらゆるテキスト全てがセンスに溢れている.グラフィックスタイルとしては,オールドスクールRPGを参考にしたと思われるドット絵だ.これには賛否あり,確かに演出面でお粗末な部分があるにはある.しかし本作の世界観とキャラクターを表現するには十分のものだし,意図的に完全なモノクロで描かれるシーンや,本作の特徴的なバトルシステムとあいまってこのスタイルでしか表現できない演出も同時に存在する.

斬新なバトルシステムと最高の音楽

既に本作のRPG部分について如何に斬新かは説明したが,バトルシステムについても本作唯一無二なものだ.本作は「東方Project」シリーズに影響を受けたことが名言されており,敵からの攻撃は弾幕シューティングのような形で行われる.制限された枠の中で自機を動かし,一定時間モンスターが発射する球を避ければこちらのターンだ.これはゲームプレイとして非常にうまく機能しており,単に弾幕を避けるのが楽しいだけでなく,敵によって繰り出す球や枠,それに伴う演出がとてもユニークで飽きさせない.バトル中モンスターと仲良くなると明らかにぬるい攻撃をしてくるなど,ストーリーテリングとバトルシステムが完全に融合している.
音楽についても最高だ.古き良きRPGらしいチップチューンサウンドだが,勇ましいオーケストラ風や,ディスコクラブのような雰囲気があるもの,viporwave的ポップミュージックなど,訪れるフィールドや状況,あるいは出会うキャラクターによって非常に多種多様な音楽が冒険を彩る.本作のベストトラックを1つ決めることはとても難しい,いい曲が多すぎるし,そのほとんどを作曲したTobyFoxの才能に驚かざるを得ない.

衝撃的なストーリー.強烈なアンチテーゼ

本作のストーリーと衝撃的な仕掛けについて,ネタバレなしで言及することはとても難しいが,精一杯描いてみることにする.本作のストーリーは大きく3つのルートに分岐する.それぞれどのようなストーリーが展開されるかは,前述したバトルシステムと連動して分岐すると言えばある程度想像ができるかもしれないが,本作はその想像をやすやすとぶち壊すだろう.結局のところ,「UNDERTALE」のストーリーはRPGと言うゲームジャンル,あるいは全てのゲームにおける敵側,モンスター側の視点を描くものであり,過去にないレベルで斬新なメタ要素的演出によってプレイヤーに新たな視点を投げかけている.プレイヤーは通常RPGでは,邪魔になるモンスターを倒し,経験値を手に入れ,レベルアップするのが普通だ.レベル上げのために敵を探し回ったり,ボスを倒すことで達成感を得て喜ぶ.もちろんそこにはモンスター側の都合や視点は存在しないだろう.不都合なことがあればセーブデータをロードしてやり直すことができるし,リセットすることもできる.プレイヤーはそのゲームに満足したらその世界から去るだろう.「UNDERTALE」はゲームとして当たり前のこれらの事象を,その世界の住人,ゲーム世界の住人側の視点から描くのに加え,ゲームシステムの根幹に干渉するようなメタ的演出とストーリーテリングによってプレイヤーの心を揺さぶってくる.プレイヤーはゲームをプレイするとき,「世界を救いたい」からプレイするわけではない,「世界を救える」から救うのだ,プレイヤーにとって,ゲームにおける「できる」は「やらなければいけない」に次第に変わっていく.しかし「UNDERTALE」において,ゲーム世界の都合を無視して全ての「できる」を追求した場合,文字通り地獄の業火に焼かれて死ぬことになるだろう.

 

「UNDERTALE」におけるバトルシステム,音楽,世界観の作り込みはそれだけでも異次元のレベルであるにも関わらず,前例のない斬新なストーリーテリングは一貫してこのゲームの本質を演出する.全てのゲーマーに向けた衝撃作であり,今後数多くのフォロワーが生まれる伝説的な作品となった.

VERDICT 10.0