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@cubid_10411 が書いたなんかのレビュー

Cuphead review

f:id:taichifurukawa:20180102220717j:plain StudioMDHRによる「Cuphead」は今まで見たことのないゲームだ.「Run’n Gun」フォーマットのアクションゲームに,全編ボス戦という尖ったコンセプトを組み合わせ,そこに1930年代カートゥーン風のグラフィックとアニメーションを加えることで,最高にクレイジーなゲームが出来上がっている.

こんなゲーム見たことない!

 Cupheadの最も大きな魅力の一つは,間違いなくそのユニークなグラフィックスとアニメーションだと思う.初期ミッキーマウスやポパイ,トム&ジェリーのような,全編1930年代のカートゥーン風で描かれており,キャラクターや背景などの,ゲーム内のアセットは全て,手書きのセルで描かれているというのだから驚きだ.StudioMDHRのヴィジュアル面に対する異常なこだわりは,ゲームを起動してすぐに感じられる.

起動してすぐに挿入されるStudioMDHRのロゴや,Cupheadのタイトルロゴのシーンに関しても,当時のテレビを再現したような画面のカスレやノイズが走り,BGMにもレコードのようなブツブツ音が乗っている.セーブデータを選択するUIであっても「レトロ」な雰囲気を崩さない.Cupheadのヴィジュアルは徹底して1930年代カートゥーンの再現に腐心していて,一瞬たりともプレイヤーを現代に返すことがない.もし1930年代にビデオゲームが普及していたら,このゲームは単なるノスタルジーを感じるためのゲームだったかもしれない.しかしビデオゲームが普及したのは1980年代以降なので,筆者は何度も「こんなゲーム他にないよ!!」と膝を叩くことになった.

 もう一つの魅力として外せないのは音楽だ.こちらも当時のカートゥーンのようなジャズ調のBGMだが,これらのサウンドトラックは本当に最高だった.前述の通り,本作は全編ボス戦という尖った仕様だが,ハードなゲームプレイと同様にこのBGMも超ハードで,ノリノリのスイングジャズだ.特に筆者のお気に入りは「Floral Fury」と「Threatenin’ Zeppelin」,そして「The King’s Court」,「One Hell of a Time」など.すなわち本作のトラックは単品で繰り返し聞けるほどハイクオリティで,聞くたびにその壮絶なボス戦を思い出させてくれる.

悪魔のようなゲームプレイ

f:id:taichifurukawa:20180209001013j:plain  本作はそのヴィジュアルだけで人を惹きつける魅力があるし,実際PC版だけで既に200万本も売れているほどの人気があるらしい.しかし実際のゲームプレイが万人受けするか,というとそれはちょっと微妙に思える.本作のゲームプレイは「死にゲー好き」を自称さえする筆者でも心折れかける「悪魔のような死にゲー」だ.

 本作はRun’n Gun形式の横スクロールアクションだ.もちろんプレイヤーは主人公であるカップヘッドを操作して,撃っては跳んでを繰り返し,ステージをクリアしていく.システム上はRun’n Gun形式を倣っているものの,ステージは8割型ボス戦で,いわば全編ボスラッシュだ.最悪なことに(褒め言葉だけど)カップヘッド君の体力はたった3しかない.つまり3回攻撃に当たったら最初からやりなおし,となるわけだ.もっと最悪なのが,本作のボスはカートゥーンワールドの住民なのでまるで秩序というものがない.ボスの体力が減ってくると,ボスはその素晴らしく見応えのあるアニメーションと共に形や姿を変え,さらに猛烈な攻撃や,見たこともない攻撃方法を繰り出してくる.結果的に初見殺しのオンパレードなり,戸惑いまくったカップヘッド君はカオスに飲み込まれあえなく死亡する.

 一歩間違えればクソゲーと言われるようなリスクを取りながら,しかし本作のゲームプレイは本当によくできている.多くの初見殺し的攻撃は,一度その回避方法を身につけてしまえば決してクリアは難しくない.何度も死に,学びながら撃破を目指すが,死ぬたびにそのボスの残り体力と共に,残りの「変身ポイント」が表示され,自身のクリアまでの道のりが可視化される.自身が徐々に強くなっていく感覚が,プレイヤーが前に進む原動力を担っている.そして前述したユニークなボス達のグラフィックスとアニメーションは何回死んでも見飽きることがないし.BGMがそれを助ける.戦いが始まるとレフェリー(?)が「This match will get red hot!!」などとプレイヤーを煽り,そしてついにボスを撃破した時には「Knock Out!!」とゴングを鳴らして賞賛する.強力なボスをやっとの思いで撃破した時の達成感は最高で,叫びそうになるのを堪えたのは一度や二度ではなかった.

意外?と魅力的な世界観とストーリー

 このゲームが1930年代カートゥーンの再現を目標にした,といったらそれはヴィジュアル面の事だけと思ってしまうかもしれない.しかし抜かりないことに,世界観とストーリーも絶妙だ.主人公達が住む世界はInkwel Isleという,いわば絵本の世界だ.そこに住むカップヘッドとマグマン兄弟は悪魔が経営し,キングダイスが取り仕切るカジノで調子に乗った末に,悪魔と魂をかけたサイコロ勝負に負ける.魂を渡す代わりにカップヘッド達は,借金を踏み倒したInkwelの住民を倒し,その魂を契約書に封じ込めて悪魔に渡さねばならない,というのが導入だ.

このような勧善懲悪では無い,むしろ主人公側が悪役的なストーリーはやはり当時のカートゥーンらしいものだし,カップヘッドを含めInkwelの住人はかなりキュートだ.主要なキャラクター,特にラスボスを務める悪魔などは直球に悪魔を演じており,非常に好印象だ.

不運な欠点

 残念なことに,不運な欠点が本作には存在する.それは「しかたがない」とも言える不運の産物だが,欠点は欠点だ.このようなハードコアなアクションゲームに最も欠かせないのが「理不尽のなさ」だと筆者は思う.理不尽とは,弾幕シューティングゲームで見えない球が飛んできたり,アクションゲームで運でしか避けれない攻撃に見舞われたりすることだ.

「Cuphead」にも残念ながら理不尽さが多少存在し.それは悲しいことにその柔軟で素晴らしいグラフィックに起因している.ボスキャラクターが七変化を遂げていく都合上,どこにダメージ判定があって何処に無いのかどうしてもわかりづらいシーンが出てくる.巨大なボスとの戦闘では,ダメージを与えるとボスが点滅したり,セル画を再現した画面効果の都合で一部の弾丸が全く視認できなくなる.もちろんこれは一部のボス戦の一部のシーンの話であるし,これらの小さな理不尽も初見殺しと受け止めて再トライできるのは幸いなことだ.

VERDICT

「Cuphead」のヴィジュアルコンセプトに似たゲームはこの世に一つも存在しない.素晴らしいカートゥーン調のグラフィックとアニメーション,何度も聞きたくなるトラックの数々は,それだけで価値がある.それに加えハードコアな死にゲー仕立てのアクションはそのヴィジュアルに下支えされ,結果として成長と達成感をプレイヤーに感じさせてくれる.小さな幾つかの欠点はあるものの,「Victory Tune」のファンファーレさえ聞けば,細かいことは忘れ,勝利に酔いしれることができる.

SCORE 9.6