Taichi media record

@cubid_10411 が書いたなんかのレビュー

Tacoma review

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 去年の年末以降,春休みを利用して結構な数の作品をプレイした.そのせいで全くレビューを書くスピードが追いつかず,現時点で8本ほど「書かねば」という作品が僕を待っている状況だ.傑作ウォーキングシム「Gone Home」を手がけたFullbrightによる新作,「Tacoma」は素晴らしいウォーキングシムであったが,残り7本のゲームが待っているという状況と,3-4時間程度のゲームボリュームを鑑みて短めにレビューしたいと思う.

 

一段レベルが上がった感のあるウォーキングシム

f:id:taichifurukawa:20180414160616p:plain  ウォーキングシムというゲームジャンルは近年非常に人気があるし,僕自身もかなり好きなジャンルになりつつある.最初期の作品「Dear Ester」はいわば同ジャンルの基礎を築いた作品であり,「BioShock」から戦闘を取り除いたと言えば直感的かもしれない.

 ウォーキングシムというゲームは,「歩き回るだけでストーリーを語る」ことに特化してデザインされているゲームのことで,探索の舞台は多くの場合「既に大きな事件が終わった後」の場所になる.プレイヤーはその舞台を歩いて探索する中で,当時の状況を伝えるボイスログであったり,書き置きの手紙やメモを見つけていく.また,当時から時が止まったかのように残されたオブジェクトの様子から,徐々にストーリーを紐解いていく.このようなストーリーテリングの手法を「Environmental Storytelling(= 環境を利用したストーリーテリング)」などと呼ばれることもあるが,ウォーキングシムはこの手法に特化したゲームジャンルだ.

   「Tacoma」はまさしくウォーキングシムとしての文法を踏襲した作品だが,舞台が宇宙ステーションという設定を活かして一段階上の表現を実現していた. 本作の主人公はいわば「回収屋」のような仕事をしているらしく,宇宙ステーション「タコマ」で起きた一連の事件に関する全てのログを回収することが目的だ.事件直後の「タコマ」に入ると,特殊なARデバイスが渡される.タコマの中では乗員全ての動きと音声が立体的に記録され,全てのログを現実と重なるMRとして見ることができるらしい.

 このMRによる記録は,ウォーキングシムとしての「ボイスログ」と「環境によるストーリーテリング」どちらの要素も併せ持つ.複数の部屋からなる比較的大きな空間の中で,当時そこにいた船員たちの会話を聞いて行くが,同じ時間に他の場所で他の船員が話している内容も記録されている.そのためプレイヤーは船内を歩き回り,時折ログを巻き戻しながら船員がどのようにその時を過ごしていたか観察していく. 船員たちの記録が現実の世界に重なるように再現されているおかげでウォーキングシムとは思えないほど臨場感に溢れたシーンを観ることができる.また,船員たちの感情を読み取るのも容易だ.  

VERDICT

 「Tacoma」は既存のウォーキングシムに「動き」を加えたことでストーリーの理解と没入感を高めるのに成功している.そしてゲーム全体を貫くストーリーも衝撃的なもので,船員たちの選択や感情は,プレイヤーである僕の感情を揺さぶることに成功していた.早ければ2時間程度,丁寧にプレイして4時間程度のプレイ時間に2,000円以上費やすべきかは人によるかもしれないが,ウォーキングシムのファンであればFullbrightの素晴らしい新作を逃す手はないと思える.  

SCORE 8.1